Dynamics 365 Finance & Operations と Business Central の選び方:単純な二分論では語れない理由

1. 大企業はFO、中小企業はBusiness Central?その単純化に潜むリスク

ERPソリューションを選定する際に、規模によって「大企業はDynamics 365 Finance & Operations(以下、FO)、中小企業はDynamics 365 Business Central(以下、BC)」と割り切る論理はよく目にします。しかし、この考え方はあまりにも単純化されており、実際の選択プロセスでは十分ではありません。
ERP選定にはコスト、機能、カスタマイズ要件、ユーザー数、そして導入後の拡張性や運用コストを考慮する必要があります。このブログでは、FOとBCの歴史や特徴を掘り下げ、最適な選択をするためのポイントを整理します。

2. FOとBCの歴史:元をたどるとAXとNAV

Microsoft Dynamics ERPの2つの主要製品であるFOとBCは、それぞれ1990年代後半に誕生しました。当時、2つの異なる企業が Navision(BCの原型)と Axapta(FOの原型)をリリースし、それぞれ中小企業向け、大企業向けとして市場を形成していました。2002年、Microsoftによって両製品が買収され、現在のERPポートフォリオの柱となりました。

Dynamics 365 Finance & Operations(FO)の進化

Axaptaは、より大規模な機能を備えたERPソリューションとして進化し、現在では Finance & Operations プラットフォームに展開されています。さらに、ユーザーの要件に応じて、D365 SCM(サプライチェーン管理)、D365 Finance(財務管理)、D365 HR(人事管理)といったSKUに分割されています。これは、現在も市場で最も包括的なERP製品の一つとして位置づけられています。

Dynamics 365 Business Central(BC)の進化

一方、Navisionは現在のBusiness Centralプラットフォームへ進化しました。Essential(基本機能)とPremium(製造機能などを含む)の2種類のSKUが提供されており、FOに比べるとシンプルながらも中小企業のニーズを満たすERPソリューションとして支持されています。

3. FOとBCの主な違い

1. 機能の多さ

FOは、あらゆる業界や規模に対応できる包括的な機能を備えています。BCに搭載されている機能はすべてFOでも実現可能であり、機能面でFOが劣ることはありません。

2. ユーザーエクスペリエンス

近年、BCのユーザーエクスペリエンス(UX)は大きく改善され、操作性ではFOとの差が縮まっています。特に中小企業にとって直感的で使いやすい設計は大きな魅力です。

3. 開発コスト

ERPの導入やカスタマイズにかかるコストは、FOとBCで基本的にはどちらも変わりません。

4. ライセンスコスト

ライセンス費用には明確な違いがあります。以下に例を挙げます:

Business Centralの場合(20人ユーザー)

  • Essentialライセンス(10名分):70ドル × 10 = 700ドル
  • Premiumライセンス(10名分):100ドル × 10 = 1,000ドル
    合計:1,700ドル/月

Finance & Operationsの場合(20人ユーザー)

  • Supply Chain Managementライセンス(10名分):180ドル × 10 = 1,800ドル
  • Supply Chain Management + Financeライセンス(10名分):210ドル × 10 = 2,100ドル
    合計:3,900ドル/月

小規模な場合は、このように2倍の格差がありますが、規模が大きくなるとFOの機能を絞った低コストのライセンスをユーザーに付与することでライセンスコストを削減することは可能です。

4. BCで十分なケースとFOが必要なケース

BCで十分なケース

  • FO依存の機能(例:高度な顧客ポータル、大規模レポート作成)が不要。
  • J-Pack により、カスタマイズなしで日本の商習慣を満たすことができる。
  • Power Platformを活用し、導入後も改善・拡張を続けたい(FOでも可)。
  • CRMとERPの両方を組み合わせて利用し、ライセンス費用を抑えたい。

FOが必要なケース

  • 大規模な製造業やグローバル企業で、高度なサプライチェーン管理が必要。
  • 業務要件が多岐にわたり、複雑なカスタマイズが求められる。
  • 多国籍展開や膨大な取引データを処理する必要がある。

5. ERP選定における当社の支援

当社では、現状のERP利用状況の改善やライセンスコストの削減に特化したコンサルティングサービスを提供しています。

  • 現在のERP運用状況の診断
  • FOまたはBCの選定支援
  • ライセンスコスト最適化プランの提案

ERP選定や改善に関するお悩みがございましたら、ぜひお問い合わせフォームよりご連絡ください。

まとめ
FOとBCは、それぞれ異なる特長を持つERP製品ですが、選定においては単なる企業規模ではなく、具体的な要件やコスト、運用計画を考慮することが重要です。適切なERP選定が、企業のDX推進や成長の鍵を握ります。



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